【活動報告】Doctor’s Café #37 + AI Salon #14 「AIによる学際融合イノベーション 〜持続可能な材料開発への挑戦〜」
- 活動報告Doctor’sCafe
- 2026.8.27

Doctor’s Café #37 + AI Salon #14 実施報告
開催概要
- 日 時:2026 年 7 月 22 日(水)15:30〜17:30
- 会 場:東京農工大学 小金井キャンパス グリーンホール
- テーマ:「AIによる学際融合イノベーション 〜持続可能な材料開発への挑戦〜」
- 言 語:英語(メイン)
- 参加者:学生 87 名、教職員 5 名、企業関係者 3 名
概要
Doctor’s Café / AI Salon は、東京農工大学内外の研究者や起業家、投資家など多種多様なゲストを様々な分野から招聘し、自由闊達なディスカッションや分野を超えた交流を行う場です。今回は Doctor’s Café #37 と AI Salon #14 の合同開催として、「AIによる学際融合イノベーション〜持続可能な材料開発への挑戦〜」をテーマに、Matlantis株式会社より 2 名の登壇者を迎え、AIと深層学習がどのように材料開発を加速し、学際的なイノベーションを生み出しているのかを探る機会となりました。分野横断型研究を目指す学生や、研究に新しい視点を得たい学生など、博士課程に限らず全学から幅広い参加がありました。
講演内容
はじめに、本学の Simon Liu 准教授より、本日のプログラムと登壇者のご紹介が行われました。
続いて、Matlantis株式会社マーケティング部長の堀野史郎氏より、「学際の跳躍 ― AIが変える材料発見のかたち」と題する講演が行われました。堀野氏は、マーケティング・MBA(英国ウェールズ)・博物館学芸員・チューバ演奏という多様なご自身の経歴を紹介しつつ、ドラッカーの「知識が専門化するほど、多くの専門分野を理解する力が必要になる」という言葉を引用し、学際性の重要性を説きました。また、電池・触媒・CO2 回収・半導体など持続可能な社会の実現に必要な材料の探索空間は約 10 の 60 乗通りと極めて広大であり、実験だけでは探索速度が追いつかないという課題を提示。Matlantis社が開発した深層学習ベースの汎用原子レベルシミュレーター「Matlantis PFP」により、従来の DFT(密度汎関数理論)計算に比べて桁違いに高速・大規模な探索(月あたり約 10 件規模から約 1 万件規模へ)が可能になったことを紹介しました。さらに、経済産業省が「原子・分子レベルでの材料設計」を日本の強みと位置づけ、Matlantis PFP が 2026 年 6 月に経済産業省の GENIAC に採択されたことにも触れ、材料・物理・化学・データサイエンス・工学、そしてビジネスといった分野を横断できる人材への期待を述べて講演を締めくくりました。
続いて、Matlantis株式会社テクニカルソリューション部長の浅野裕介氏より、「深層学習技術を用いた汎用原子レベルシミュレーターの社会実装 〜多様化する課題と今後の人材像〜」と題する講演が行われました。半導体材料の研究開発(上智大学、テキサス大学オースティン校客員研究員を経て)や ENEOS でのマテリアルズ・インフォマティクス業務を経て Matlantis社に加わったご自身の経歴を紹介した上で、DFT 計算は高精度である一方、計算コストが原子数の 3 乗に比例して増大するという課題を解説しました。機械学習原子間ポテンシャル(MLIP)という技術によりこの課題を克服できることを説明し、Matlantis PFP は 7,000 万件の DFT 計算結果を学習データとし、量子化学の知見を組み込んだ独自のグラフニューラルネットワークにより構築されていること、白金バルク構造の計算では従来の DFT 計算に比べて最大 2,000 万倍の高速化を達成していることを示しました。触媒・電池・半導体・合金・潤滑剤・セラミックス・吸着材・分離膜など幅広い分野への応用事例に加え、2019 年の Preferred Networks と ENEOS の共同研究から 2021 年の Matlantis 株式会社設立、そして 2026 年 7 月時点で 150 社以上・900 ユーザー以上へと事業を拡大してきた経緯が紹介されました。また、「キャズムを超える」「ブルーオーシャン戦略」「イノベーションのジレンマ」といった経営理論を引用しながら、不確実性の時代における事業成長の考え方を解説。最後に、今後は「データを生み出す」「データを蓄積する」「データを活用する」という 3 つの力がますます重要になるとし、実験と計算の両方を使いこなせる人材、課題を発見しプロジェクトを牽引できる人材の育成が求められると述べました。
パネルディスカッション・交流とフィードバック
パネルディスカッションに先立ち、Simon Liu 准教授より、浅野氏によるMatlantisのソリューションとそのビジネスへの応用に関する講演に謝辞が述べられ、AIを用いた材料の計算探索がイノベーション創出にもたらす可能性が改めて強調されました。続いて、堀野氏、浅野氏、田中聰久教授を迎えたパネルディスカッションが行われ、AIが今後の研究開発をどのように変えていくかについて議論が交わされました。パネリストには、①AIが実験研究や仮説検証に与える影響、②理論面や新素材開発において実験チームへの支援をどのように広げていくか、という 2 つの論点が投げかけられました。
議論では、まず材料科学や学術論文執筆の分野における AI の現状とその影響が取り上げられました。AI は単純な対話機能にとどまらず、論文執筆等の作業を支援する段階へと進化している一方、その出力については人による確認・検証が不可欠であるとの認識が共有されました。あわせて、AI の急速な進化のスピードに置いていかれることへの懸念も語られ、その進化に圧倒されるのではなく、AI を有用な道具として使いこなす学び方を身につけることの重要性が指摘されました。
さらに、AI 時代において博士課程の学生をはじめとする研究者に求められる力として、①課題を発見し解決する力、②組織運営・マネジメント能力、③AI の限界を理解する力の 3 点が挙げられました。AI は問題解決や自動化を支援できる一方、未知の課題を見出す力やチームを率いる力といった人間ならではの能力は今後も不可欠であり、既存の解決策の提示に AI を活用しつつ、AI を正しく理解し使いこなす能力こそが今後の成功の鍵になるとの考えが示されました。
また、ビジネスの現場における人間関係やコミュニケーションの重要性についても言及があり、新たなプロジェクトや取り組みを生み出す上で感情面での協働が欠かせないことが述べられました。加えて、顧客からのフィードバックをモデルの改善に活かしつつ、一定の情報は自社の資産として保持するという技術開発戦略が紹介され、オープンソースモデルの普及が進む競争環境の中でも、顧客フィードバックを開発に組み込む自社のアプローチが将来的な強みになり得るとの見方が示されました。
最後に、機械学習における実践と同様に、参照データの確認やモデル予測の信頼区間の理解を通じて AI モデルの妥当性を検証し、その出力への信頼を担保することの重要性が強調されました。異なる材料・プロセス領域におけるモデルの適用可能性は慎重に見極める必要があり、シミュレーションと実験データの両方を用いて一定の範囲内での精度を確保することの必要性が語られました。あわせて、大学における研究と産業界における研究の違いにも話が及び、大学の研究は好奇心に基づき新たな知見を明らかにすることを目指すべきである一方、企業における研究は実用化と価値創出に主眼が置かれるとの整理が示され、社会や産業に貢献できる人材を育成する上で大学における基礎研究の重要性が改めて強調されました。
クロージング・ネットワーキングの時間には、参加者同士が積極的に交流し、AI と材料科学の融合という新しい研究領域への関心を深める姿が見られました。本イベントは、参加学生にとって AI を活用した学際融合研究への具体的な手がかりとなるとともに、産業界の第一線で活躍するゲストとの貴重な交流の機会となりました。
当日プログラム表
「AIによる学際融合イノベーション 〜持続可能な材料開発への挑戦〜」
日時:2026 年 7 月 22 日(水)15:30〜17:30
スケジュール:
① 15:30~15:35 イントロダクション:本日のプログラムとゲストのご紹介(Simon Liu 准教授)
② 15:35~15:50 スピーチ「学際の跳躍 ― AIが変える材料発見のかたち」(堀野史郎氏)
③ 15:50~16:40 スピーチ「深層学習技術を用いた汎用原子レベルシミュレーターの社会実装〜多様化する課題と今後の人材像〜」(浅野裕介氏)
④ 16:40~17:10(30 分) パネルディスカッションと Q&A(英語・日本語):堀野史郎氏、浅野裕介氏、田中聡久教授(本学)
⑤ 17:10~17:30(20 分) クロージングとネットワーキング
